今後の評価実施の方向について

-第三者評価事業に関する評価の結果を受けて-

024.9.26
日本生活介護

PDFファイルのダウンロードはこちらから

2024年6月14日、佐々木貴雄氏(日本社会事業大学 社会福祉学部准教授)、山本雅章氏(静岡福祉大学 社会福祉学部心理学科特任教授)の両氏による日本生活介護の第三者評価を実施しました。
本稿は、6月14日に実施した「日本生活介護の第三者評価に関する評価」の結果を受けて、今後の評価の実施に関する方向性について述べたものです。
なお、「第三者評価事業の評価」の詳細はホームページを参照してください。

1.利用者・職員の意向の把握とフィードバック

評価コメントのまとめ
第三者評価には、「利用者のサービス選択のための情報提供」として評価結果及び利用者調査の公表などの仕組みがあり、特に利用者調査などにより利用者がサービスをどのようにとらえ評価しているのかについて「見える化」が行われている。その結果を事業所に効果的にフィードバックすることが重要である。

現在、利用者の意向についてはアンケート上の数値の集計だけではなく、可能な限り聞き取り調査を実施し、調査において把握したこと、感じたことなどを事業所にフィードバックすることでより多面的な利用者の理解に役立てている。また、職員自己評価についても、定量的な把握と同時に可能な限りコメントの自由記入を行うなど、直接的な意向の把握に努めている。

利用者に対する聞き取り調査は、定められた質問項目のデータ収集にとどまらない様々な情報(表情や態度、雰囲気など)を得ることができると同時に、利用者にとっての参加や事業所や家族以外の他者との会話する機会ともなっている。また、評価者や調査員にとっても利用者と相対して関係を作るという支援の基本的な技能(スキル)の獲得と行使の場となっている。そのため、事業所からの要求に応じて調査員の顔写真の入った掲示用のポスターの作製配布を行っている。

今後も、利用者調査を重視した評価を実施していくこととし、利用者調査実施のポイントについて解説資料などを作成するとともに、新たに評価者となった人にはOJTの実施や個別のアドバイスを実施していく。さらに、福祉を志望する学生などの評価者補助者としての育成を継続的に実施していく。

2.サービスの質の向上について

評価コメントのまとめ
第三者評価制度には上記の「サービス選択のための情報提供」以外に、「サービスの質の向上への取り組みの促進」というもう一つの目的が掲げられている。この「サービスの質の向上への取り組みの促進」については、標準項目の評価だけでは不十分であり、より包括的に施設の良い点や改善すべき点を言語化して評価することやアドバイス的なものを通じて実施される必要がある。


第三者評価において「サービスの質の向上の促進」は「利用者への情報提供」とともに、第三者評価の目的となっているが、その取り組みが不十分であることは「評価コメント」の指摘のとおりである。しかし、この点については評価推進機構においては、単に「気づきを与える」(この上から目線の言葉!?)とするのみで具体的な方法は示していない。

訪問調査は単に評価項目に関する確認とデータの収集のためだけにあるのではなく、利用者調査における聞き取り調査と同様に事業所とのコミュニケーションとしても大きな意味を持つ。事業所にとっても、「話を聞いてくれた」「わかってもらえている」といったことが、第三者評価を受審してよかったという結果やこの評価機関に依頼してよかったという結果につながっている。

今後、訪問調査をコミュニケーションの場としてとらえ、事業所からも普段から知りたいと思っていたことや他事業所で取り組み事例など、様々な質問を積極的に行ってもらうように働きかけていきたい。
さらに、訪問調査が終了した段階で、評価項目に限定せず、事業所全体に対して感じたことの感想の発表や訪問調査の講評をそれぞれの評価者が行うことについても検討を行いたい。

3.第三者評価の効果・効用の確認

評価コメントのまとめ
行われた第三者評価の結果が評価を受審した事業所や利用者にどのように活用されているのか、果たして評価が有用なものだったかどうか、評価結果が運営に反映されているかどうかなど、「評価後」の施設の状況について評価機関が評価する必要がある。

評価の効用・効果の確認については、繰り返し受審する事業所に対して、前回の評価結果が有効であったどうかを確認し、その結果を踏まえた評価を行うなど、より一層、事業所の実践に役立つ評価としきたい。そのために、次回(あるかもしれない)の第三者評価受審へ向けての申し送り票の作成などの検討などを行う。また、申し送り時には他事業所にとって特に参考になりそうな取り組み事例についても記載し、評価者間での共有を図りたい。

4.評価者の専門性の確保と共有

評価コメントのまとめ
高齢や障害、児童などの各分野の評価者の専門性を高めていくことが期待される。
それぞれの評価者の現場での経験やキャリアは貴重ではあるが,その経験がそれぞれの評価者の中で固定化している場合もあると思われる。今日的な価値や知識・技能を習得しながら、評価者自身がブラッシュアップする必要があり、評価機関として必要な研修の実施などに取り組んでいくことが期待される。

「評価コメント」に記載された評価者の専門性については、かつて東京都においては「標準項目に従って誰でも同じ結果が出せる」ことが第三者評価の特徴と言われていたように、あるいは、「(3年以上の経験で)実際には誰でも評価調査者になれる」(全国社会福祉協議会 福祉サービス第三者評価のあり方に関する検討会報告書 2022.3.4)とあるなど、評価者に専門性はないとされている。さらに、評価推進機構の実施している研修においても評価の専門性をテーマとした研修は見当たらない。

評価者の固有の専門性は、ともすれば評価項目に精通していることと考えられがちであるが、その専門性は決して標準項目をめぐる訓詁学の専門家になることではない。

評価者として期待される要件とは、一定の経験や知見に基づいて事業所のサービスの現状を判断することであると言われるが、経験と知識であれば、現役の事業所職員の方が優れているかもしれない。したがって、評価者としての専門性は、その判断の背景に利用者や事業所の利害を離れた第三者(「外部の目」)として、社会一般の常識や規範を根拠として支援やマネジメントの現状を判断することに他ならない。

そして評価者の判断はさらに評価者同士での合議を通じて検討され評価者間で共有される。この判断の確認の繰り返しと蓄積が評価者に固有の専門性(評価のスキル)を与える。ここで、積み重ねられた判断(基準)の蓄積が、やがて評価機関のスタイルとして定着していく。

前段の「評価コメント」においてはサービスの質の向上のための方策としてアドバイスの実施などが提言されているが、適切なアドバイスを行うという取り組みは端的に評価者の専門性が試される場でもある。事業所の抱える課題に対して他の事業所がどのように対応しているかという知識は不可欠なものである(ちなみに、事業所で働いている現役の人が評価者を志望する理由もここにある)と同時に、アドバイスによって「気づきを与える」ためには、双方で問題意識が共有されていなければならず、その見極めが重要となるからである。そうでなければいくら正しい指摘であっても押し付けや余計なお世話となってしまうからである。

いうまでもなく、評価者がいくつもの第三者評価を経験し、多くの事例に接することはその専門性にとって不可欠な事項である。
しかし、現状(2024.4.1)では、約1,500名の評価者の内、年間5件以上の評価を行っている評価者は全体の35%にすぎず、12%の評価者は年間で1件の評価も行っていないことは、評価者の専門性を考える上で大きな課題だと思われる。
日本生活介護は、評価報告書を過不足なく作成するというスキルにとどまらず、評価をより実りあるものにしながら評価者の育成を図っていきたい。また、同分野の専門家や経験者による専門部会を設置し、その成果をもとに研修を開催し、評価者間で共有していくといった研修などを計画的に実施していきたい。

5.評価機関としての質向上に関する働きかけ

評価コメントのまとめ
福祉サービスの拡大に伴い、今後第三者評価の重要性は高まるものと考えられる。一方で、第三者評価事業に様々な事業者が参入する中、人材難や悪質な事業者の進出なども懸念されることから、今後、評価機関の質の評価も課題になってくると思われる。事業者が価格だけではなく評価してよかったと思えるような仕組みづくりの提言なども希望する。

評価機関の質の向上として、虐待防止や利用者の意思決定支援等、福祉現場で重要となっているトピックを常に意識すると同時に、今後も当社の取り組みの適切性について客観的に評価してもらう機会を作っていく。
しくみづくりの提案については、評価者や評価機関の能力と同時に評価の仕組み(端的に評価項目)に係る以上、どこまで実効が得られるかは不明であることから、同じ問題意識を持つ他社との協働を模索すると同時に、評価の実践についてホームページなどによる継続的な情報発信によって行うこととしたい。

以上

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次