訪問調査について

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訪問調査について

-第三者評価の実施に当たって

2022.9
日本生活介護 第三者評価室室長
齋藤 貴明

 第三者評価の実施にあたり、評価者の皆さまに確認してもらいたいことを、以下のようにまとめました。利用者調査の前にご一読ください。

【事前の準備と訪問調査の流れ】

 訪問調査に際して、事務局から事前に事業プロフィール、利用者調査結果、職員自己評価結果、分析シート、事業計画・報告書などの資料が届きます。訪問調査当日までに目を通し、事業所の状況を思い浮かべながらヒアリングで聞きたい事項を整理しておいてください。

 訪問調査当日は、最初にリーダーから利用者調査結果と職員自己評価に関する報告をして、事業所と簡単な意見交換をします。その後、事業プロフィールについて確認したい事項を聞きます。ここまで30分を目途に実施します。事業所が複数の事業種別を運営している場合や、利用者調査に加えて家族アンケートをオプションで実施する場合などは、さらに時間がかかることになります。

 この間、リーダー以外の評価者からも質問します。しかし、その後のヒアリングの時間の都合もあるため、詳しく聞きたい点や、自らの担当分野に関する質問は、その後の個別のヒアリングの中で聞いてください。

 組織マネジメント、サービスのプロセスと実施、それぞれのヒアリングに入る前に、全体で確認しておきたい事項について、事業所と評価者が共有する時間と捉えてください。

訪問調査の標準的なタイムテーブル

時間実施事項具体的な内容、実施方法
10:00 ~10:30オリエンテーション 利用者調査・職員自己評価結果の報告自己紹介、タイムスケジュール等の確認、利用者調査および職員自己評価の報告書についてリーダーより説明
10:30 ~12:00事業所見学と分析シートに基づくヒヤリング (見学は、事前に利用者調査で事業所を訪れていない場合)組織マネジメントとサービス分野に分かれてヒアリングを実施。サービス分野については、実施担当から先にヒアリングをする場合には、プロセス担当者は資料確認を行う。
12:00 ~13:00昼食休憩および資料確認個別支援計画書や各種マニュアルなど、事業所で確認する資料を準備してもらい、各自の担当分野に関する確認を行う。
13:00 ~16:00ヒヤリングの続きタイムテーブルの時間内で終わるように努める。コピーが欲しい資料についてはリーダーの確認を得た上で事業所に依頼する。
終了後合議(場所を移して実施)全体好評(特に力、良い点・改善点)について、評価者による合議で決定。30分以内を目途。

 ヒヤリングの持ち時間はおおむね2時間半程度と考えておいてください。資料や見学により確認できることもあります。ヒアリングにおいては、事実関係の確認よりも、事業所がどういう考えや意図をもって実践をしているか、その結果どのような成果が上がっているか、あるいは課題があるか等について掘り下げて聞くことの方が有意義な時間となると思います。また、そうしたやり取りを通じて、全体講評の特に力をいれている点や、良い点・改善点として取り上げる事項についても把握しやすくなります。

【事業所についての理解を深めるために】

 演繹(えんえき)法と帰納(きのう)法という物事の考え方があります。演繹法は事実の背後にある因果関係や法則などをもとに、物事を予測したり類推したりすることです。例えば、事業所の資料で、「利用者への対応が悪く、家族から苦情が寄せられている」という事実があり、さらに「職員の定着率が低い」という事実もあれば、そこから「職員が定着しない→支援の質が維持できない→家族からの苦情につながっている」という因果関係が想定できます。するとそこから、職員が定着しない背景に管理職のマネジメントや人事給与制度における問題があるのではないか、支援の質が改善されなければ虐待の可能性もでてくるのではないか等、事実関係の背景や予測される事態を類推していくことができます。

 一方で、帰納法は観察により得た様々な事象をまとめることで、事実を把握する方法です。例えば、事業所を訪れた時に、「職員が不慣れな感じがする」、「利用者にも落ち着きが見慣れない」、「管理職の姿を探しても見当たらない」等の事象があるとします。「もしかすると課題の多い事業所なのかな」と思いつつ職員の一人をつかまえて話をきくと、「職員の定着が悪く、利用者の支援も上手くいっていない。管理職は事務所にこもりっきりである。かくいう自分もつい一週間前に就職したばかり」といった話を聞いたとします。そうすると、先ほど感じていた課題が、職員の定着・支援の質向上にあることが分かりました。

 訪問調査に当たっては、こうした考え方をフル活用し、事前準備の段階で資料を読み込む際には演繹法により様々な仮説を立て、事業所に対する興味を高めてください。そして訪問調査の際には、一度立てた仮説をわきに置いて、新鮮な眼で事業所の様子を観察し、ヒアリングをする中で得た事象を帰納法的に整理し、訪問前に立てた仮説と突き合わせることで、事業所に対する理解を深めることにつながると思います。

【第三者評価たる所以と評価者が与える影響】

 訪問調査では、ヒアリングを通じて事実を収集していくわけですが、その事実が利用者支援においてどのような意味があるのか、そこには事業所が目指す方針が貫かれているのか、さらには事業所の取り組みが賞賛に値することなのか・それとも改善を要することなのか等について、支援を受ける利用者でもなく、支援を提供する事業所でもない、第三者である評価者および評価機関が判断することが、第三者評価たる所以かと思います。

 評価者とはいえ人間が行う以上は、判断を評価者の主観から完全に切り離すことは難しいところがあります。しかしたとえ、主観が入っていたとしても、利用者本人と事業所という閉じられた二者の関係性に対して、利害関係のない外部の人間が評価したり、意見を言うこと自体が、良い意味でも悪い意味でも影響を及ぼすことになります。

例えば、利用者と職員との関係性が慣れ合いのようになってしまっていることを評価者が指摘することで、それ以降に程よい緊張感を持って職員が支援に臨むきっかけになるかもしれません。また、事業所としては当たり前のこととしてやっており、あまり意識していなかったことが、他の事業所と比べてとても丁寧な支援であることを伝えることで、職員のやる気向上につながるなど、貴重な役割を果たすことがあります。

もちろん、相手があることですので、伝え方や表現などには気を使う必要があります。ひいき目に見ても、あまり良い支援ではないなと思っても、事業所自体は「一生懸命やっている」と思っていたり、何が良くないのかに気づいていないことがあるからです。あくまでも主役は利用者と事業所であり、改善事項を指摘する際には、事業所が受け入れやすい伝え方に配慮することが大切です。感情的になることがないように注意してください。

 評価結果については、合議を行う中で複数の評価者が意見を述べ合い、最終的に評価機関としての見解をまとめます。それにより、評価者個人の主観に立った評価結果ではなく、複数の見解を踏まえて、さらには社会通念上も妥当と思われる内容にしていくことができます。

 弊社の評価者の皆様は、福祉に対する造詣が深く、多様な社会経験を積まれている方が多いので、あまりにも偏った評価や、ピントはずれの指摘をする方はいらっしゃいません。その上でさらに、自らの経験や考え方を一度わきに置いて、先入観をもたずに事業所の取り組みを見てもらい、他の事業所における取り組みと照らし合わせたり、他の評価者の意見を参考にするなど、幅広い視野から評価していくことが必要と思います。

ちなみに、評価推進機構が公表している「評価項目解説」では、仕組みの整備や、実施している事実など、客観的な事実の確認に重点が置かれています。評価において客観性を重視する限り、こうした形式主義の評価にならざるを得ないと思いますが、実際に評価を受ける事業所の立場で考えてみると、このような評価のみでは、「あり」「なし」の判定だけが重要に思えてしまい、評価を受ける価値を感じることはできないと思います。

 評価者の一言が、利用者や事業所にとって大きな影響を与えうることを念頭に置いて、事業所の前向きな姿勢や取り組みを積極的に評価していただくようお願いします。

【質問の広げ方】

 評価経験の浅い方から、ヒアリングの仕方についてお尋ねいただくことがあります。事業所の取り組みについての話を広げるために効果的な質問としては、以下のようなものがあります。

  • (分析シートの記載内容について)「具体的に教えてください」
  • 「どのような意図をもって、その取り組みを実施したのですか」
  • 「上手くいった事例、逆に上手くいかなかった事例はどういうものですか」
  • 「いわゆる困難ケースについて、どのように対応しようと思っていますか」

①の「具体的に教えてください」は、事業所の様々な取り組みを引き出すことができる質問です。分析シートには記載していない内容も話してくれることもあります。中には話し出すと止まらない方もいますが、時間配分に気を掛けながら面白い取り組みを引き出してください。

②の意図を聞く質問では、事業所の利用者支援に対する姿勢を垣間見ることができます。③、④の質問とあわせて、事業所がどのようなことを重視して利用者に向き合っているか、どのようなことを研究して実践に活かそうとしているか等、評価をする上で重要なポイントを聞くことができます。特に支援においては上手くいかないことも多々あるため、④の困難ケースへの対応を訪ねる際には、自らも苦労した体験を紹介したり、事業所への共感を言葉や態度で示すことができれば、さらに効果的なヒアリングとなります。

事業所の理念や方針を実践することができているかを判断するのは、こうした個別具体的な事例を通じて可能となると思います。

 また、訪問調査の対象となる事業種別について、評価者の知識や経験が少ない場合もでてきます。その際に、「よく分からないので教えてください」と言うのは大変正直で良いのですが、事業所によっては怪訝に思うところもあります。

 評価者として事業所を訪問する以上、予備知識を集めたり、他の評価者に確認するなどの事前準備をしていただきたいと思います。また、訪問調査の際には、専門家然とした態度をとる必要はありませんが、「具体的に教えてください」という質問を駆使して、事業所の話を引き出しながら、その事業種別に対する理解を深めていくことが必要かと思います。

【Cool Head but Warm Heart】

 イギリスの経済学者であるアルフレッド・マーシャルが、ケンブリッジ大学の教授就任講演で次のように語っています。

 「ケンブリッジが世界に送り出す人物は、冷静な頭脳と温かい心をもって、自分の周りの社会的苦悩に立ち向かうために、その全力の少なくとも一部を喜んで捧げよう」

 この「冷静な頭脳と温かい心(Cool Head but Warm Heart)」は、評価に対する姿勢としても大変参考になるものです。評価者の皆様には、事業所の取り組みを冷静かつ温かに見てもらい、改善を指摘すべきところは指摘し、良い点がさらに伸びるような、事業所の自信につながる評価をしてもらいたいと思います。

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以上

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