報告書の作成について

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報告書の作成について

-第三者評価の実施にあたって

2022.10
日本生活介護 第三者評価室室長
齋藤 貴明

 皆様は普段、どのような形で活字に触れることが多いでしょうか。新聞、小説、専門書などに加えて、近年はインターネット上の記事、いわゆるネットニュースも氾濫している状況です。
 第三者評価の評価結果報告書も文章ですが、新聞記事や小説などとは異なる目的や作成上のポイントがあります。また、我々が通常思い浮かべる論文やレポートとも異なる特徴があるため、その独自性に慣れ、楽に作成できるようになるまで多少時間がかかります。

【評価結果報告書の特徴を知る】

 評価結果報告書の一番の特徴として、256文字という字数設定があります。「なぜ256文字なのか?」という疑問がわき、評価結果を記すのに最適な文字数なのか等、色々と調べてみましたが、分かりませんでした。結局、評価結果報告書のフォーマットであるエクセルの一つのセルに入る最大の文字数が256文字ということでした。
 では世の中にある256文字の文章とはどのようなものでしょうか。例えば、私の手元に2022年6月1日の日本経済新聞の朝刊があります。その一面にある「春秋」というコラム(朝日新聞の天声人語にあたるもの)を抜き出してみます。

 日本経済新聞2022年6月1日(水)朝刊「春秋」 この春に亡くなった俳優の柳生博さんは古い暦に関心を寄せていた。自著「和暦で暮らそう」で、古来の月の呼び名を紹介している。6月は水無月のみにあらず。田水之月、風待月、鳴雷月……。「研ぎ澄まされた自然に対する美意識」を感じさせる表現の数々である。(121文字)
 蝉の羽月、という異称もなかなか風流ではないか。辞書を開くと、衣服がセミの羽のように薄くなる意味だという。陰暦だから現代なら7月ごろにあたるのだが、数日前の暑さを思えばぴったりと合う気もする。きょうからの採用面接解禁を前に、スーツの上着を片手に抱きながらオフィス街を行き交う若者の姿も目立つ。(145文字)

 総務省消防庁によると、日本各地で真夏日を観測した先月29日には、400人超が熱中症で搬送されたという。その後和らいだとはいえ、油断は禁物である。体が高温に慣れていない時期はリスクが高い。毎年6月に入ると患者が増える。小まめに水を飲む。屋外ではなるべくマスクを外す。対策を怠らないようにしたい。(143文字)

 とはいえ自衛には限界がある。このまま気温上昇が続けば、季節の風情を味わうどころではなかろう。ウクライナ危機で石炭の利用増加が懸念されている。都市化によるヒートアイランドも無視できない。「熱波月」やら「蒸し風呂月」やらの言葉が生まれてからでは遅い。いっそうの知恵を絞りたい。夏の始まりである。(145文字) 計554文字

 256文字ですと、二段落目の途中(一段落と二段落あわせて266文字)、起承転結でいうところの承の部分までとなります。コラムにとってはストーリーが肝要ですから、起承転結を崩さずに文字数を256文字にした文章に直してみると以下のようになります。

 柳生博さんは、古来の月の呼び名を紹介している。6月は水無月、田水之月、風待月……。「研ぎ澄まされた自然に対する美意識」を感じさせる。(66文字)
 衣服がセミの羽のように薄くなる意味の、蝉の羽月という異称もある。数日前の暑さを思えばぴったりと合う気もする。(54文字)
 6月に入ると熱中症で搬送される患者が増える。小まめに水を飲む。屋外ではなるべくマスクを外す。対策を怠らないようにしたい。(60文字)
 気温上昇が続けば、季節の風情を味わうどころではない。「熱波月」や「蒸し風呂月」の言葉が生まれてからでは遅い。いっそうの知恵を絞りたい。夏の始まりである。(76文字) 計256文字

 いかがでしょうか。随分と表現がすっきりとして、膨らみのない文章になっているかと思います。これを評価結果報告書の文章に当てはめて考えると、ストーリー性と、事業所における具体的な取り組みとのバランスを考えながら書く必要があるといえます。

 ここで文章の事例を挙げてみたいと思います。高次脳機能障害を持つ利用者の就労移行支援に特化した事業所の評価結果報告書から抜き出したものです。
 これは、全体講評の良い点に挙げた文章で、設立後に苦労を重ねながらも高次脳機能障害という専門性の高い分野での支援実績を重ねていることを評価した内容で、事業所がこれまでに歩んできた道のりを踏まえて書いたものです。

タイトル 51文字
パイオニア精神を持って、高次脳機能障害を持つ利用者の希望を叶えるべく、労を惜しまずに支援を実践している
本文 253文字
事業所は、高次脳機能障害を持つ利用者が、仕事をしたいという希望を叶えることを目指して2018年に開所している。パイオニア精神を持って、管理者を中心に職員一丸となって支援に取り組み、就職実績を積み重ねてきている。高次脳機能障害に対する社会の理解も十分でない中で、利用者が資格を取ることが就職へのアドバンテージになることから、利用者が取得できる資格を職員がともに考え、サポートしている。また、行政手続きなどは障害特性により困難を伴う場合も多いが、職員が付き添って支援するなど、生活面でも労を惜しまずに支援をしている。

 起承転結でいうと、開所したこと(起)、実績を積み重ねていること(承)、資格取得や生活面での支援を頑張っていること(転)と、結までは展開できていませんが、事業所の具体的な支援内容につて触れることで、事業所の頑張りを評価しています。
 ちなみに、タイトルの文字数はカテゴリーコメント(最大40文字)と全体講評(最大64文字)で異なります。

【「あり」「なし」による評価とコメントによる評価】

 第三者評価の報告書ですので、そこには「評価」が求められます。ではどこで評価をするかというと、まず一つが標準項目の「あり」「なし」の選択です。これについては、評価項目の解説を参照しながら事実関係に基づいて選択をしていきます。事業所が分析シートに「あり」と記載していても、根拠となる文書や仕組みがなければ「なし」を選択してもらって構いません。また、サービスの項目においては「非該当」を選択できる項目もあるので(食事提供や服薬管理の有無について等)、その際には「なし」と「非該当」を誤って選択しないように注意してください。

 取り組みの水準についてはコメント内容で評価をします。とてもよくできている取り組みなのか、それとも改善を期待したいものなのかについて、事業所に伝わるように表現をしていくことが必要です。良い取り組みであれば、「先進的な取り組みである」とか「職員の頑張りが感じられる」などの表現を用いて評価します。逆に改善を期待したい取り組みについては、「改善が期待される」といった結びの言葉を用いたりします。その際には、文字数の範囲内で改善の方向性なども示すことができれば、説得力が高まります。また、「可もなく不可もない」という水準の取り組みについては、事実関係を記述する内容が多くなります。

【タイトルの役割と効用】

 評価結果報告書においては、タイトルも大きな役割を果たします。265文字のコメント内容が簡潔にまとめられており、さらに、良いと評価されているのか・改善が必要と評価されているのかが分かりやすいタイトルは、読み手の理解を助けることに役立ちます。
 組織マネジメントで15、(カテゴリー数5×3、カテゴリー7は除く)、サービスプロセスで15(同5×3)、サービスの実施で18(生活介護の場合、同6×3)、特に力を入れている点で3、良い点・改善点で6、計57のコメントに全て目を通す労力は相当なものです。その際に、分かりやすいタイトルが付けられているがどうかは、報告書が良くできているかどうかの判断にも影響を与えます。

 タイトルの効用の1つ目として、報告書全体のバランスを考慮しながら個々のコメントを作成できることがあります。特に経験の少ない評価者の場合は、報告書作成に当たって、まず担当する全てのコメント欄のタイトルから作成してみることをお勧めします。カテゴリーに合致した内容になっているか、同じような内容が重複していないか、書き忘れたことはないか等について作成前に確認でき、その後の作業が効率的になります。
 また、効用の2つ目としては、タイトルを膨らませることでコメントが作成できることです。例えば、まず特徴的な取り組みをタイトルに書き、本文でその具体的な内容を追加して256文字に収めればコメントが完了します。

 次の文章は、ある認定こども園に関するサービスのコメントです。まず、「遊びこめる環境の整備」と「自分のことを伝えられる場」という特徴的な取り組みからタイトルを作り、その後に具体的な内容を加えて文章にしたものです。

タイトル 38文字
子どもが遊びこめる環境を整備し、子どもが自分のことを伝えられる場も作っている
本文 244文字
広い園庭には、大型遊具が数多く設置されている。職員が子どもたちの安全を見守る中で、子ども達が夢中になって遊んでいる。移動可能なサッカーゴールもあり、興味のある子ども達が思い切りボールを蹴っている。芝生もあり、子ども達が裸足で遊ぶことができるようになっている。また、カードを使った遊びなどを通じて言語に対する感覚を養うようにしている。毎日子ども達が発表する場も作り、当番としての連絡や、自分のなりたいこと等を伝えている。発言する経験を積み、言葉で自分のことを伝えられるようにしている。

「名は体を表す」といいますが、良いタイトルは読み手にとっても、書き手にとっても重要なポイントになります。

【いかにコメントの材料を集めるか】

 コメントに記載する取り組みの具体的内容について、ヒアリングや事業所が用意した資料をもとに確認をしていきます。分析シートでは、あまり具体的な記述がないケースでも、ヒアリングを通じて様々な取り組みを引き出すことができます。また、各種のおたよりや、行事実施報告書などの内容が充実しているケースもあり、各場で確認することができます。
 報告書作成の経験を積んでいくと、どの程度の材料が揃えば、コメントを作成することができるかどうかの判断がつくようになってきます。しかし、経験の少ない間は、できる限り多くの材料を集めた方がコメント作成での苦労が少なくなると思います。
 また、分析シートにかなり多くの取り組みを記載している事業所もあります。そのようなケースでは、ヒアリングで逐一聞いていると時間がなくなってしまいます。事業所が特に力を入れて取り組んでいることに絞って話を聞くなどの工夫が必要となります。また、記載した取り組みが実施されているかについては、資料を通じて事実確認をすることで効率化を図ることも重要です。

【改善点に関するヒアリング】

 評価結果報告書作成における最大の課題は、改善点の作成かと思います。事業所の中には、自らの課題を的確に把握し、分析シートの改善点に挙げていることもあります。また、設立後間もない事業所では、多くの課題に優先順位をつけながら取り組みを進めていることが多く、そのような場合も改善点はある程度明確になっています。

 しかし、歴史のある事業所などでは、標準項目で定める全ての項目を高い水準で実施しており、課題というほどの課題が見当たらないケースもあります。そのようなケースでは、どうやって改善点を挙げていけばよいのでしょうか。
 その場合には、取り組みの質を向上させていく改善点や、あるいは現在は問題が発生していなくても、将来的に問題が発生する可能性があることを指摘していくことになります。その場合には、ヒアリングの段階で事業所に問題提起をして、ある程度の同意を得ておくことが望ましいといえます。そのために、カテゴリーに関するヒアリングとは別に、改善点に関するヒアリングのための時間をとる必要性がでてきます。
 例えば、ある障害児入所施設では、入所の年齢制限があるため、子ども達を他の施設などに円滑に移行させることが課題となっています。それについて、事業所とのヒアリングの中で、どのような改善策があるか、実施できる可能性はどの程度あるか等についてよく確認し、その結果を改善点としてまとめました。

タイトル 64文字
過年齢児や課題を抱える子どもの移行を確実に進めるために、関係機関との連携に加えて園内の推進体制なども検討していくことが期待される
本文 256文字
園では、地域生活移行の取り組み強化が課題となっている。そのために、特別支援学校や関係機関との連絡調整を強化し、移行支援会議を実施するなどの取り組みを図っている。こうした取り組みにより円滑に移行できるケースがある一方で、子どもの抱える課題や保護者が抱える課題などにより移行が困難なケースも多い。さらに、移行のために必要な情報の収集や、支援の継続性を担保する移行先との連絡調整など、実務面での負担も大きい。今後の移行を円滑にするために、関係機関との調整に加えて、園内の推進体制なども検討していくことが必要と思われる。

【さいごに】

 評価を受審する事業所の多くがリピーターでもあります。そうした事業所が、当社の評価結果に納得してもらっていることが、再度の依頼につながっていると思います。
 評価者の皆様には、これまでの利用者調査編と訪問調査編でお示ししたポイントと、今回の報告書作成編の内容をあわせてご確認いただき、利用者や事業所にとって有意義な評価となるようにご協力いただければと思います。
 評価活動の社会的な意義や役割は大きなものがあると思いますので、さらなるご参加をお待ちしております。

以上

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