利用者調査について

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利用者調査について

2022.8
日本生活介護第三者評価室
室長 斎藤 貴明

 第三者評価の実施にあたり、評価者の皆さまに確認してもらいたいことを、以下のようにまとめました。利用者調査の前にご一読ください。

【個人の体験談から】

 私が評価者の資格を取ってかれこれ10年以上になりますが、それまで、福祉施設の利用者さんから話を聞くという経験をしたことはほぼ皆無でした。支援員として勤務したことなかったですし、ボランティアとしての経験もありませんでした。評価者の資格を取るに至った理由としては、私が当時勤務していた会社で第三者評価を実施しており、評価者を増やす必要があったためでした。
 評価者の業務のうち、訪問調査のヒアリングや報告書作成については、講習を受ける中でイメージしやすいものでした。しかし、利用者調査は全くもって未知のものでした。
 資格取得後に最初の利用者調査を行ったのは、知的障害者の入所施設であったと思います。あまり緊張することはありませんでしたが、利用者さんがどのような行動をとるか分からないという警戒感はあったと思います。また、意思疎通もほとんどできていませんでした。質問に対する答えを引き出すことはとてもできず、なんとなく話を合わせて終わっていたような印象があります。利用者さんがオウム返しで回答したものについては、よく確かめもせずにそのまま記入していました。
 利用者調査として成立したと思えるのは、その後に特養や救護施設を対象とした聞き取りを実施した時です。認知症などで難しいケースもありましたが、コミュニケーションができる利用者さんとのやり取りを踏まえて、回答を引き出すことができました。
 その後も多くの種別の利用者調査を実施しましたが、やはり知的障害、特に自閉傾向の利用者さんのケースでは難しさを感じていました。諦めて、早めに聞き取りを終わってしまうことも多々ありました。

 しかし、いつ頃からとか、何がきっかけかは、はっきり分かりませんが、利用者調査に対する私の感じ方が段々と変化してきました。
 例えば、2年続けて調査を実施していた施設の利用者さんが、以前に私と話したことを覚えてくれていたことがありました。その時はコミュニケーションが十分にとれたとは思いませんでしたが、話したという体験を利用者さんが覚えていてくれたことをとても嬉しく思いました。
 また、障害児の入所施設では、子どもからの聞き取りはしませんでしたが、見学の際に話しかけてもらい、職員以外の人との関わりを楽しみにしていることが分かりました。
 こうした体験を積む中で、利用者調査で大切なことは、質問に対する利用者さんの本音を引き出すことよりも、利用者さんがどういう生活を送って、何を考えているかを理解することだと思うようになりました。

それ以降、「上手く聞き出そう」という欲はなくなりました。逆に、それまで早く終わらせたいと思っていた難しいケースにおいては、たとえ話はできなくても、一定の時間を利用者さんと一緒に過ごしてみるようになりました。オウム返しの利用者さんには、あえて違う回答を聞き直す(利用者さんが「そうです」と答えたら、「そうじゃない?」と聞き返す)こともトライするようになりました。
 また、児童養護施設での子どもへの聞き取りも貴重な体験でした。1つ目の事例は、その状況が特徴的でした。有料老人ホームの評価業務で、入居一時金が一億円超の超高級ホームを訪問した翌日に児童養護施設の利用者調査をしたのです。

 当時、私も一人目の娘が小学生になったばかりでしたが、同じ年頃の女の子から、施設に対する愚痴や、一緒に入所している姉や弟との関係が上手くいっていないこと、家に帰りたいことなど、様々な話を聞き、一人の親として色々と思うことがありました。まして、前日に超豪華な有料老人ホームでの生活を送る人たち(この人たちは何も悪くないですが)を見ていたこともあり、何とも言えない気持ちになりました。
 また、他の施設では、大人に対する警戒感からか、聞き取りに際して明らかに拒否的な態度をとり、開始するなり「早く終わらせて」というカウンターパンチを放つ子もいました。しかし、質問しながら、その子の回答を熱心に聞いていると、徐々に思っていることを話してくれるようになりました。
 受け入れるまでに時間はかかっても、他人と話をすることを大切に感じている子どもおり(もちろん、そのようなことを思わない子もいます)、そうした思いを持っている子どもには真摯に向き合わなければならないということを実感しました。

【利用者調査とは何だろうか】

 こうした体験を踏まえて、現在、私は利用者調査の意義や目的について、「評価者・調査員を媒介にして、利用者が社会とつながる機会である」と捉えています。

 利用者さんの普段の姿を思い起こしてみると、例えば知的障害の通所施設に通っている利用者さんは、日々自宅と施設との往復が主で、そこでの人間関係といえば、家族や施設職員といった顔なじみの人との交流にとどまっていることが多いと思います。高齢者施設の利用者さんは、家族の面会がない限りは施設職員が話し相手です。児童養護施設の子ども達は、職員を含めた他者との人間関係を築くことすら難しい状況にあります。
 こうした中で、利用者調査を通じて、利用者さんは普段とは異なる人(評価者・調査員)との交流を持つことができます。障害のある利用者さんは、緊張しながらも初めて会った人と会話をする経験を積んだり、高齢の利用者さんは普段できない会話を楽しんだり、児童養護施設の子ども達は社会という存在を意識して自らの境遇を振り返ったり、将来について思いをはせることにつながるのだと思います。
 利用者さんが外部から来た評価者・調査員から刺激を受け、改めて社会とその中での自分という存在を意識するきっかけになっている、ということが利用者調査の一番の意義ではないかと思うようになりました。
 もちろん、調査項目について回答を得ることが目的でありますので、項目に則した質問を通じて利用者さんの意向を把握することが重要であり、項目から逸れた内容や、身の上話などに時間を費やすことがメインとなってしまってはいけません。
 短い時間の中で、調査項目に沿いながら、利用者さんと社会とのつながりを意識して、聞き取りを進めていくことが重要だと思います。

【テクニック的なことについて】

 利用者調査の意義や目的は上記のように考えていますが、調査を進める上での工夫やテクニックについても記しておきます。

 まずは、聞き取りに臨む上での準備として、以下のようなものがあります。評価者の中で実践されている方もいますので、参考にしてみてください。

〇 服装はあまりかしこまった感じではなく、特に男性の場合、スーツやネクタイなどのフォーマルな装いをさける。
〇 名前が大きく書かれた名札を準備して、相手に示す。
〇 子どもへの聞き取りの場合、相手が状況に慣れるまで少し時間的な配慮をする。キャラクターもののボールペンなどの小物で子どもの興味を引いてから行うこともある(特に小さい子どもの場合)。
 なお、調査開始前のあいさつは必ず行ってください。

 次に、調査項目の伝え方です。特に障害や高齢の利用者さんにとっては、「個別支援計画に関すること」や「苦情解決第三者委員に関すること」など、理解が難しい項目があります。その際には分かりやすい表現への言い換えが必要になります。以下では、障害福祉サービスにおける調査項目の言い換えの事例を記しましたので、ご参考いただければと思います。

質問項目言い換え
あなたの身の回りにある設備は安心して使えますか?トイレ、お風呂、階段など、危ないところはないですか?
他の利用者との交流など、仲間との交流は楽しいですか?ここに来ている他の利用者の人とは仲良くやっていますか?一緒に楽しいことをすることはありますか?
利用者同士のいさかいやいじめ等があった場合の職員の対応は信頼できますか?他の利用者さんとケンカとかトラブルになった時に、職員は間に入って対応してくれますか?
職員は、あなたの気持ちを大切にしながら対応してくれていると思いますか?職員は、あなたの話をよく聞いてくれて、あなたのことを大切にしてくれていますか?
あなたのサービスに関する計画(目標)を作成したり見直しをする際に、あなたの状況や要望を聞いてくれますか?(まず初めに)個別支援計画や今年の目標などを知っているか、そのための面談などを定期的に行っているかを確認する。 (知っていれば)面談の時は、職員さんはあなたのやりたいことなどを聞いてくれましたか?
あなたが不満に思ったことや要望を伝えたとき、職員はきちんと対応してくれると思いますか?あなたが「いやだな」と思った時や、「こうして欲しい」と思った時は、職員に言えばちゃんとやってくれますか? (「そういうことがない」と回答した場合)もしそういうことがあれば、職員にちゃんと言えていますか?
あなたが困ったときに、職員以外の人(役所や第三者委員など)にも相談できることをわかりやすく伝えてくれましたか?何かいやなことがあって、職員に言いづらい時は、役所の窓口で聞いてくれたり、他に聞いてくれる人がいることは教えてくれましたか?

 また、「総合的な感想」として、大変満足~大変不満までの5段階評価がありますが、利用者本人に指差しで選択してもらう形をとると、より分かりやすくなると思います。

【さいごに】

 評価を受ける事業所からすると、利用者調査については非常に関心を持っている事業所もあれば、そうでない事業所もあります。例えば、児童養護では非常に関心が高い施設が多く、職員に言うことができない子ども達の本音が聞くことができれば、それを改善に役立てていきたいという意欲があります。
 一方、関心が低い事業所の場合には、自閉傾向や認知症などで利用者さんにコミュニケーション能力がないと判断している場合や、普段やり取りをしていない評価者・調査員が来たところで利用者さんは話なんかしない、と一方的に決めつけている場合もあります。
 こうした事業所においても、実際に利用者調査をしてみると、一所懸命に思いを伝えようとしたり、楽しく話をしてくれる利用者さんに出会ったりするものです。そんな時は、利用者さんの反応や様子を事業所にも伝えて、利用者さんにとっても貴重な機会であったことを理解してもらうように努めています。
 ほんの少しの時間ですが、一期一会の気持ちを大切にして、利用者さんが社会とのつながりを実感できるような利用者調査が実施できれば良いと思っています。

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以上

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